俺たちが『火宮総会』と呼んでいるその会合は、シンプルに言えばただの親戚の集まりである。
火宮家には多数の分家があることは既に述べたけれど、一族全体の今後の方針や重要な事項の決定、一族同士の交流や情報の交換などを行うために、月に一度、本家と分家が一堂に会することになるのがこの火宮総会なのだ——と、いうことになっている。
それも一側面ではあるのだが、けれど決して真実ではない。そもそも火宮グループという組織はトップである火宮本家によるほぼ独裁状態であり、この会議も結局のところは形式だけのものなのだ。そんな会合に意味なんてないだろう。
それでは、つまるところ火宮総会とは何なのかというと、本家から分家への、そして分家同士の醜悪なマウント合戦の場なのである。
本家は分家を支配し管理したいし、分家は本家に取り入りたい。そしてそのためにはほかの分家をつぶしておきたい。
どいつもこいつも、家柄しか見ていないような大人たちばかりなのだ……そんなことを考えながら、俺は会議が進行していく様子をぼんやり眺めていた。
場所は金剛町にある高級ホテル天城。その大会議室である。
火宮総会に参加できる資格を持っているのは、火宮の名を冠している本家の人間、それぞれの分家の当主、そして分家の長兄だ。例えば雄助は長男だから参加義務があるし、俺は末っ子だけど本家の人間だから参加しなければならない——のだが、高校生である俺たちには関係のない議題ばかりなので、はっきり言って退屈でしかない。
それでもこの肉体に火宮の血が流れている以上、表向きだけでも真面目に見えるように振る舞わなければならない。この場で露骨につまらなそうな態度をすることは、俺の将来にとってデメリットでしかないからだ。
気付かれないようにそっとあくびを噛み殺しながら、このあとのことについてぼんやりと思考していると、
「——最後に。総帥、前へ」
という、進行役の男の声で意識が覚醒した。
総帥というのは火宮家の現当主であり、同時に火宮グループの頂点に立つ者のことだ。俺にとっては伯父にあたる人でもある。
そんな伯父が俺たちの前に出てくる。これはかなりレアなことだ。彼は一族の頂点に立つ者として、当然ながら総会には必ず出席している。とはいえ、挨拶すら司会か秘書に任せている有様なので本人が自ら前に出ることはほぼないのだ。
親戚たちも同じことを考えていたのだろう。会議室がにわかに騒めき始めた。
しかし、伯父が俺たちの前に立ったその瞬間。つい先ほどまでの騒めきが嘘のように、しん、と静まり返る。隣に座っている者の呼吸や鼓動まで聞こえてきそうな、そんな静寂が、一瞬でこの空間に訪れた。
そして。
「近頃」
と。
火宮グループ総帥——火宮翔鳳はしじまを破り。
今夜の総会で初めて、意味のある情報を告げたのだった。
「古鷹を中心に、違法薬物の密売が行われている」